オーナーにパスを返してから2年ちょい。なんだかんだで私はちゃんと高校生を卒業して念願の一人暮らしと大学生生活をそれなりに楽しんでいる。週に1,2回ミルクディッパーに顔を出して愛理さんのコーヒーを飲んだり、良太郎君と今日の講義がどうだったとか話をしてすごす。そんな穏やかで充実していると十二分に言える時間が日常になったある日、ふと、思った。 「ねぇ、良太郎君」 「なに、ちゃん?」 「待つほう、と待たせるほう、どっちが辛いんだろうね」 「っ、それは」 「ああ、答えなくていいよ。だってどちらかになってみないと気持ちはわからないもんね。今の私たちは待つほうでしょ?待たせるほうの気持ちってどうやっても理解できない気がする。だから遅いって怒っても忘れたのって悲しんでも、それと同じぐらいあっちだってこう、ぐるぐるなってるはずだし、結局のところまたあえて笑えたらきっとそれでいいんだと思う。……ごめんね、ただのひとりごとだよ、さみしい女のひとりごと」 困り切った表情の良太郎君ににこりと微笑みを向けて、ずずっと良太郎君が淹れてくれた香り豊かで酸味が強すぎないコーヒーを飲んで、ナオミちゃんの強烈な味のコーヒーが懐かしいなと思った。一般的にみて充実している毎日は、私にとっては物足りない。目をつぶって思い出す。素晴らしいぐらいに色鮮やかで危険ではあったし、楽しいことばかりではなかったけれど、あんなにもキラキラしていたデンライナーでの騒がしい日々がいつのまにか過去になった。隣にいてくれない金色に恋焦がれ涙した日々がどうがんばっても過去になった。私は今を生きていて、これからを夢見る。それがどんなに辛くても。信じてるなんて綺麗な言葉は使えない。使えられるほど子供でも純情でもない。わがままだから。ひねくれてるから。勝手に待ってるだけだから。そうおもわないと挫けそうになる。明日が来るのが怖くなる。今日を過去にしたくなくなる。日常として時が止まることはないのだろうけど。じっとこちらを見つめる良太郎君に「ごめんね」と呟いてもう一度微笑んでみせた。 あの時がどれほど過去になったとしても。 |