「ーあがったぁー」 「んー」 がしがしとタオルで水分をふき取りながら寝室に入る。一緒に暮らし始めてから幾度となくかわしたこのやり取りは最初のほうこそ恥ずかしがっていたものの、もう慣れたもので返ってきたのはいつもどおりの気の抜けた恋人の声。 だけどそこにうっすらと違和感を感じて、それは先にお風呂からあがって寝室にいるはずのの姿を見て核心に変わった。いつもならあたしが上るころにはとっくに乾いているはずの髪が未だに重く湿っていたのだ。 「、頭乾かしてなかったの?」 「あー・・・忘れてた」 「もー風邪ひいたらどうするんだよ!」 自分の髪を拭いていたタオルで容赦なく冷たく冷え切った髪をぬぐう。いつもならふざけるように軽く抵抗してくるはずなのに、今日は一切抵抗してこない。不思議に思って顔をのぞきこむ、とぎょっとしているあたしの顔がの目の中に写っていた。今にもこぼれそうな雫を携えた瞳に、だ。 「・・・どうした?」 「あー・・・うん、うん、ちょっと」 困ったようには笑う。この年上の恋人は何時だってそうだ。聞かなきゃ何も言ってくれない。大人の余裕がどうのとか言っているけれど、あたしにとっては不安材料にしかならないのに。 切ない、悲しい、情けない。そんなにあたしは頼りないだろうか。大学生と高校生はそんなに違うんだろうか。たった数年、されど数年、越えられない時間差がもどかしい。もっとあたしが大人なら。かんだ唇はすぐにの指によってそっと離された。 やっぱり、その顔は困ったように笑っていた。 「そんな顔しないで塔子。私が虐めてるみたいじゃない」 「・・・だって」 「塔子が頼りないとか、そういう訳じゃないの。私に告げる覚悟がないだけ。私が塔子を悲しくさせたいだけ」 「言ってくれないほうがよっぽど悲しいって、いい加減わかってよ!」 思わず、大きい声を出してしまって、はっとをみる。はその大きな目を更に大きくして、ついで、酷く傷ついた顔で「塔子」あたしの名前を呼ぶから。 気がついたらに抱きついてた。あたしだけが悪いわけじゃないってわかってるからごめんは、言わない。だまっても抱き返してくれてしばらくの沈黙の後はそっと口を開いた。 「友だちにね、言われたの。人間として間違った方向に進むなって。元々そういう考え方を持ってるのは知ってたんだけど、変わらずに友だちでいたい子だから、悲しかったの」 それだけ。そっと体を離した時にはもうの目に涙はなくて、でも目が悲しいって叫んでた。 正直言って、あたしには”人間として云々”がなんのことをさしているのかさっぱりわからなかった。わかったのは友だちと意見がすれ違って、それで酷く傷ついていることだけ。だから同意も示せなくて、それが顔に出てたのかはちょっぴり笑って教えてくれた。 「つまりね、同性を好きになるのは人間として間違ってるってこと」 かぁ、と血が上ってくるのがわかった。それがを傷つけた言葉って言うこともあったけれど、だってそれは、その友だちにその意図があったかどうかはさておいたとしても 「私たちの、否定よね」 苦しそうに、は笑った。 私はただ、抱きついて愛を囁くしか |