すぱーん!と音を立ててあけたドアの向こう。どうせゲームでもやってるんだろうと思ったら意外にも読書をしてた晴矢のぽかんとした顔はスルーして真正面に正座をする。と何か悟ったのか読書を中断することに決めたらしい晴矢もわざわざイスからおりて正座をしてくれた。まったく空気が読めるときは読める奴である。 っとか普段の私ならつっこんだりからかったりするところなんだけれども、今日はそれどころじゃなかった。だって一大事が起こったのだから! 「聞いて、晴矢」 「なんだよ」 「ふられた」 声に出した瞬間滲み出した視界でも晴矢の顔がやっぱりな、といわんばかりの表情になったのが見て取れてよりいっそう視界が滲んだ。もうぼやけすぎて何がなんだかわからない。 なんだ晴矢の癖に予測しちゃってんのバカじゃないの。ってか予測できたってことはなに、そんなにこの結果になるってわかりやすかったの!? がーん。ショックだ。なにがって、鈍感に定評のある晴矢ですら気付いてるってとこ。 「・・・・・・ひっ、っく、ふ、ふぇ、は、るやの・・・ばかぁ!」 「俺何もして無いだろ!?」 したってーの。今この瞬間私の乙女心をずったずったに切り裂いたのだ! 「う、っぅ、だって」 「ああもう落ち着け。大体予想はつくが聞いてやるよ。何があった?」 「教えてください様っていわなきゃやだぁ!」 「おまえ人の部屋突撃しといてその台詞かよ!」 冗談。気持ちを落ち着けるためのちょっとしたジョーク。の、つもりだったのだけれども、ショックは私が思ってた以上に大きかったみたいで涙がとまらない。 とまらないどころかあれよあれよという間に涙の粒は大きくなってスカートのぺたんとついてた膝部分は水浸しでぐっしょぐっしょ。顔も涙に加えてちょっと出てきた鼻水でぐっしゃぐっしゃだ。正直、顔が上げられない。 と、不意に視界に影が差して、あったかいなにかが私を包んだ。ひぐ、っと間抜けな音が喉からもれる。単純に驚いたからだ。だってまさか、あの晴矢が、女の子の扱いがまったく持ってなってないあの晴矢が!泣いている私を抱きしめてくるなんて思わなかったのだから! 「」 「っく、な、っ、な、に」 「例えばの話だ。お前には大好きな奴がいたとして、そいつは別の女が好きだった。その女はお前よりも美人でボンキュッボンで性格も申し分ない、パーフェクトだったとする。その場合、お前は完敗で100%ふられる。わかるか?」 前言撤回だこいつ女の扱いまるでわかってない。 ふられて傷心で泣いてる女の子に向かって、傷に先割れスプーンで塩塗りむようなこと言うのはどこの無神経野郎だよ!ってこの目の前の無駄に体温が高いなぐもさんのことですねわかりますぅううう!!! よしわかった、一発殴ろう。そう心に決めて握ったこぶしはぴたり、と動きを止めた。晴矢が口を開いたからだ。別に他意はない。・・・きっとたぶん私を慰めようと努力をしてくれてるんだろうから、最後まで話を聞いてからでもなぐるのは遅くないと思っただけだ。 「例えばの話、お前の好きなやつよりもかっこよくてスポーツ万能で心がまるで大海原のように広い男がいたとする」 そんな奴いるものか 「そいつは、お前の好きな奴よりもお前のことを幸せにできる自信があって、お前の好きな奴よりもお前のことが好きなんだけど、そいつがお前に告白しようとしているんだが、どうだ?」 「ど、どうだって」 そんなこといわれても困る。っていうか何時の間にやら涙は止まってるし、何時の間にやら私は顔をあげていてぽかんと晴矢をみてるし、何時の間にやら晴矢は私の肩に手を置いてじっと私を見てるし・・・。その目があまりにも真剣で戸惑う。だって、だってそれはあくまでも最初に晴矢が仮定したように例え話のはずなのに。 いったいこれは、どういう状況? 「ついでにいうと、その男ってのは俺のことなんだが、どうだ?」 だから、どうっていわれたって 「ちなみにいい返事以外は聞かねぇぞ」 ほんと、どうしろっていうのよ・・・!? 女の子は、現金よね。 だって好きだった人の顔が思い出せない! |