「恋情は人を弱くする」
自主練習中、背後からの突然の言葉に、ボールを操る足が止まった。 「お前は、弱くなるつもりか?」 ふり返らずともわかるけど、此処でふり返らないのもまた彼女の機嫌を損ねそうで、言外の要望にこたえることにする。 ああ、やっぱり。視界に入ったのは見事なプロポーションに不機嫌そうな顔。そんなに眉間にしわを寄せたらせっかくの美人が台無しなのに。 「ウルビダ、愛情は人を強くするんだ」 「たとえば祖国への愛のために戦場へいったように、たとえば愛する人を命がけで守ったように、たとえば、サッカーへの愛で無限の成長を見せるように」 ウルビダの柳眉がよりいっそぎゅっとよったのが見えてこっそりため息をついた。そんなにあからさまに不快感を出さなくてもいいのに。ここ最近ウルビダはオレに会うたびにそんな顔をする。そんなにオレが守のことを好きでいるのが気に入らないんだろうか。なんて、愚問だけど。 それじゃあ、そんな考えを吹き飛ばすたとえを教えてあげようじゃないか。 「たとえば、父さんからの愛情にオレたちがこたえるように、愛は人を強くするんだ」 それを聞いてしばしの沈黙。真意を見定めるようにオレを見て、そうかと一言。それきり口をつぐんで去っていったウルビダの顔には安堵の色が見て取れた。大方、オレが守に夢中でオレたちの目的を忘れてるとでも思ったんだろう。確かに、オレは守が好きで、それが友情なのか愛なのか恋なのかそれはわからないけど。オレは確かにずっと守といたいと思ってるけど、それが無理だと知っているから今こんなに夢中なんじゃないか。 狙いを定めて蹴ったボールは壁に焦げ跡を残して重力に逆らうことなくおちていった。 |